ソウルでの三国間、二国間協議:将来の貿易、安全保障、政治的関係――スティーブン・ナギ国際基督教大学准教授

15年以上の付き合いがある、国際政治学者のスティーブン・ナギ先生は、日本と中国、韓国、3国間の外交や経済などについて、グローバルな視点からダイヤモンド・オンライン「DOL特別レポート」に寄稿しています。

 

また、アルジャジーラやCNBCなどに出演し、日本の政治関係の解説などを行っています。アジア地域で活動を行う企業へのコンサルティングなども行っていますので、お気軽にお問い合わせください。

 

そのナギ先生が、11月の日中韓三国協議の内容を受けたレポート「ソウルでの三国間、二国間協議:将来の貿易、安全保障、政治的関係」をまとめられ、そのレポートを、当サイトに掲載できることは望外のよろこびです。

 

新春を迎えるにあたり、変化の兆しが見られる日中韓三国の関係について、一考する機会となれば幸いです。

 

スティーブン・ナギ

 

1971年カナダ生まれ。2004年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程(国際関係)修了、2009年同博士課程修了。

2007年早稲田大学アジア太平洋研究科のリサーチ・アソシエイト、2009年香港中文大学日本研究学科助教授に就任、2014年より現職。

早稲田大学「アジア地域統合のための世界的人材育成拠点」シニアフェロー、香港中文大学香港アジア太平洋研究所国際問題研究センター研究員を兼任。

研究テーマは東北アジアの国際関係、日中関係、アジアの地域統合及び地域主義、非伝統的安全保障、人間安全保障、移民及び入国管理政策。

 

最近の活動は、以下の通りです。

  

安保、移民、アベノミクス…日本の言論「二極化」への処方箋

http://diamond.jp/articles/-/83685

 

日中韓は不毛な「歴史修正競争」に歯止めを

http://diamond.jp/articles/-/78640

 

日本は本当に右傾化しているか?カナダ人国際政治学者はこう考える

http://diamond.jp/articles/-/71509

 

PM Abe's visit to Washington

https://ajam.boxcn.net/s/ wj9e6dly6paeqap7e56dvhq2yi9iyt jm

 

Japan regional election results due Monday

http://video.cnbc.com/gallery/?video=3000374349

 

ソウルでの三国間、二国間協議:将来の貿易、安全保障、政治的関係

ソウルで行われた、李克強、朴槿恵、安倍晋三らの、三国間、二国間協議は、3年間で初めてのことでした。東アジアで最も重要な国のトップリーダーが、地域内の関心事を共有し、話し合うために集まりました。彼らの議論の焦点は、各国の優先事項、広報外交、そして建設的で互恵的な関係を作ることに向けた今後の課題です。これらの三つの領域を理解することは、地域の将来の貿易、安全保障と政治的関係への洞察を与えてくれます。

 

それぞれの国の優先事項、広報外交の関心事、三国間および二国間の課題を分析する過程において、私は、次のような疑問について探求することになるでしょう。地域の政治的関係に関する一般的な議題への提案とは何でしょう?二国間および三国間の関係は、グルーピングによってどのように異なるのでしょうか?二国間の課題は、日中間と日韓間とで同じでしょうか?より人懐こい関係となるための政治的余裕はあるでしょうか、そして、改善するか、悪化するか、それとも現状維持かもしれない関係は、どのような影響を貿易に与えるでしょうか。

 

私は、はっきりと声に出してくれる実務的協力者へのアプロ―チから、先日の三国間、二国間協議は、中国、韓国、日本が、彼らを分け隔てている中核となる課題において歩み寄らないことを強く示唆していると主張します。また、日本ー韓国、韓国ー中国、中国ー韓国間のダイナミックな変化(転向)は、日韓の間で徐々に進む関係改善が、同時に、中国と日本の友好関係樹立のけん引力を見つけるためにもがきつづけることを示しています。

 

三国間協議:経済、環境、そして自然災害協力

11月1日の、李首相、朴大統領、安倍首相の会談は、これら三国間に起こっているグローバルな広報外交試合にとって重要な光明でした。責任ある、また先見の明のある国家としてグローバルな存在へと努力している中国は、日本との外交戦の遂行を続けています。中国は、対話し外交する責任あるグローバルプレイヤーとして描写することを目的とする一方で、日本を、反省しない、再軍備によって現状を覆そうとする歴史修正主義国家として描こうとしています。

 

同様に、2010年以降の、特に安倍政権下における日本外交は、国際法、規範、国際社会にコミットしていることを、貿易、安全保障、そして東南アジアにおける国際規範の提唱など、数々の外交見解において強調しています。広報外交戦略は、中国の成功に反応することから、アジア地域や国際社会での、ポジティブな日本イメージを描写することを企図する、先を見越したものへとシフトしました。たとえば、「開かれた,海の恵み―日本外交の新たな5原則ー」と題する、平成25(2013)年1月18日,ジャカルタでの安倍首相の演説は、民主主義、表現の自由、人権の尊重の価値観を共有する国々との関係を深めることへの関心と、それら国々への日本のサポートを強調します(http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/25/abe_0118j.html)。あからさまにそう言わずに、この「価値外交」は、国際法に従い、実際にパワーを持つ日本のポジションを高め、固めることを目指して、日本と中国を並置しています。

 

朴大統領の韓国は、この広報外交試合では、受け身のプレーヤーではありません。彼女は、公然と、慰安婦に対するスタンスと、その歴史修正主義に対して、日本と日本の首相をたしなめました。広報外交は、北米の各州に慰安婦像を建て、日本政府にプレッシャーを与えて、日本と韓国間の歴史的な議論を引き延ばしています(“A California statue stirs passions in South Korea and ire in Japan,”

http://www.pri.org/stories/2014-01-29/california-statue-stirs-pride-south-korea-and-protest-japan (Accessed November 16th, 2015)。

 

この広報外交合戦を全方位的に見れば、いずれのリーダーも、前向きなメッセージを創造したい政治家であるということを伝えたがっていました。国内世論がリーダーたちの心に重くのしかかりますが、彼らは、三国間の自由貿易協定に向けた作業を継続することで一致し、また環境問題や自然災害における協力関係を深めることでも一致するという、実用的な協力に向けた作業をおこないました。

 

地域で発生する数多くの自然災害同様に影響力の大きい中国の環境問題を特に考えることも重要ではありますが、この機能主義的アプローチは、つなぎ目(国境?)あるいは地域内において、これらの国々が、領土紛争のような伝統的な安全保障だけでなく、日本の帝国主義の遺産とリーダーシップといった歴史問題についても、三国間レベルで、取り扱うことがいまだに困難であることを示しています。

 

三国間の自由貿易協定の焦点は、それは何か、ということにも見られるべきでしょう。減速する中国経済の恩恵を受けている日本、そして特に韓国は、持続的な経済成長を維持する方法を見出す必要があります。両国は、高齢化が急速に進み、労働人口となる若者が減少し、結果として国内の消費者が衰退しています。中国とのFTAは、韓国製品と日本製品に、広大なマーケットを開放することになるでしょう。韓国にとって、中国はナンバーワンの貿易相手国としての地位を固めることになり、韓国経済の将来が、中国経済の成功、失敗、停滞と固く結びつくことでしょう。

 

中国にとって、FTAは減速する経済を刺激する一つの方法であるとともに、中国経済の軌道に、日本と韓国をさらに引き込むことでもあります。東アジア最大の経済がより緊密で深い経済関係になることは、中国の対外政策の恩恵となるでしょう。日本と韓国両国は、経済的圧力を恐れて北京の政治課題からかなり遠くへ離れていくことは、より難しいことになるでしょう。政治関係が悪化したり、北京と対立するようなときに、懲罰的経済を申しいれ、経済制裁を行った実績から、三国間のFTAは、中国と関係する経済相手国を作り出す危険を冒すようなとき、域内諸国にとって一つの夢物語となるかもしれません。

 

経済、環境、自然災害協力など、中国との間の課題にもかかわらず、韓国と日本はかれらの中核的な問題を犠牲にすることなく、相手方とともに発展することを証明するために、国内世論に取って返してWin-Winのシナリオを描き出し、メッセージを送ります。国家間、特に地方政府や草の根レベルでの協力の実績がこれに当てはまります。

 

二国間タンゴ パートⅠ:徐々に前進する韓国と日本の関係

三国間協議が、互いに再保証するモデルとして過去の実務的協力を使用したものであるに反して、二国間会談は、かなり異なるメッセージをそれぞれ持ち帰っています。日韓二国間協議は、朴大統領の日本に対するとげとげしいスタンスは非生産的で、慰安婦問題にフォーカスすることは全体的な関係を犠牲にしているという、韓国内の世論の認識と同じくらいの圧力がアメリカからもあるため、徐々に前進ということになりました (“In foreign policy, Pres. Park “too obsessed with principles”,

http://www.hani.co.kr/arti/english_edition/e_national/646973.html (Accessed November 13th, 2015)。

 

この、日韓間の少しずつの前進は、安倍首相が背後で、慰安婦問題で韓国側に動く努力をしたことによってもたらされました。最初のあからさまなジェスチャーは、米国で安倍首相がスピーチした時に、東アジアにおける女性の人身売買を引き合いに出したことでした。慰安婦について直接引き合いに出したわけではありませんが、人身売買という言葉は、以前の首相の発言と比較して、かなり強い言葉使いです(http://www.mofa.go.jp/mofaj/na/na1/us/page4_001149.html)。

 

二番目の明らかなジェスチャーは、日本帝国を調査する委員会による長い報告書において、多くの女性が日本帝国時代に暴力を受けていたこと、そして日本は進歩を遂げたことを強調していたことです

(http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201508/06_21c_koso.html) 。

 

三番目のジェスチャーは、安倍首相が8月14日に行った戦後70周年のスピーチにおいて、戦場における女性の恥辱を語ったことです

(http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/20150814danwa.html)。

 

まとめると、これら朴大統領への接近は、両国関係の漸進的な改善と、韓国日本の関係を慰安婦問題ではない方向へと向けることに寄与しました。この、ゼロサム軸よりもWin-Win軸へ包括的に日韓関係の再配置が行われることは、 日本と韓国は、相互に興味のある分野で、徐々に二国間協力が増加することを意味しています。

 

最初の協力は、日本が韓国をTPPのメンバーになれるようにサポートすることになりそうです。韓国の参加は、ベトナム製のような東南アジア製品の輸出先として、先進国の中産階級消費者数をかなり増やすことになるでしょう。同時に、加盟することによって韓国企業は、TPPの証明と、急成長する東南アジアの製造ネットワークへのアクセスが可能となり、TPPメンバーとして生産と輸出ができるようになりますから、知的所有権やサービスセクター保護を享受することになるでしょう。

 

韓国の加盟は、タイやフィリピンの加盟の勢いもあり、疑いようがありません。TPPの範囲と期待は深まり、そして拡大しています。これらの国々の加盟は日本政府のサポートを受けたもので、中国の広大な生産拠点の代替としての東南アジアの役割を拡大することとなるでしょう。

 

二国間タンゴ パートⅡ:現状とASEAN決裂

日本と韓国の力学は、徐々に、そして着実に進展していることに特徴づけられますが、中国と日本の力学は、現状維持、または”ニュー・ノーマル”、つまり緊張関係は継続され、相互不信は石のようでありながら、中核的でないテーマでは動的・機能的になっています(http://www.genron-npo.net/world/archives/6011.html)。

 

指導者は、二国間に存在する中核的な相違について対処することなく、対談と将来の協議を約束しました。彼らは、いずれの国にも存在する、政府に対して非常に不信感を持っている国民に向けて、意図的にこのようにふるまいました

(http://www.policyforum.net/not-so-great-expectations/)。

 

安倍政権下での日本は、中国では、このように理解されています。それは、鎖国を捨て、朝鮮半島を植民地化し、破壊的な戦争を中国と東南アジアにおいて遂行した明治維新と同様の、新しい壮大な戦略に基づく国家再興の過程にあるということです。

 

これとは対照的に、共産党のリーダーシップ下にある中国は、日本において次のように理解されています。本質的に反日で、不正直な、東シナ海や南シナ海双方における強引な軍事力の拡大を実行する国であると。日本では、国民も政策立案者も、中国による地域覇権に対する懸念がずっしりと、不気味に姿を現していると感じています。

 

この格差は、広報外交、ODA、対外的な直接投資(FDI)のほか、TPP、RCEP、三国間協議で触れられた三国間のFTAなど、それぞれ競合する貿易協定を通じて、地域またグローバルに、お互いが競争しあうことになってしまっています。疑惑は、戦略的に間違ったステップを誘発してもいます。たとえば、日本はAIIBに参加していません。また、中国の「一帯一路」戦略についても、日本は積極的でも、協力的でもありません。2つの中国の戦略は、日本に中国と競争せず、協力する機会を与えています。これらは、相互不信を拡大させることなく利用できるエクササイズとなるでしょう。

 

中国を除く11か国とのTPP締結による日本の成功は、一強と仕立てたことです。日本は政経分離を捨て去り、または地勢的経済戦略に優劣をつけず、従順な国々との貿易と経済関係を優先するという、中国に対する伝統的なアプローチです。

 

この方向転換は、東アジア地域の一体化において重要な意味合いを持ちます。まず、ASEANプラス6または10をベースとしたASEAN中心の統合モデルは、現実になりそうにありません。短期的にはASEAN中心となるかもしれませんが、中長期的には、中国の経済成長が、その巨大な引力によって、周辺経済を引き寄せることになるでしょう。次に、TPPのような協定は、取引相手国である中国との関係強化(ラオス、カンボジア)となったり、TPPで団結した相互に経済的関心がある国々(ベトナム、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、おそらくフィリピンやタイも)の関係強化となり、いずれASEANは分裂していくことになるでしょう。コンセンサスをベースとした意思決定を行うASEAN手法は、ASEANの外からの経済力や政治的影響力などの圧力によって破砕され続けるでしょう。

 

今後

2015年11月にソウルで開催れた三国間および二国間協議は、中国、日本、韓国間の和解に向けた転換点として、歓迎されました。(しかし)より厳密な分析からは、異なる力学と、参加国間の紛争の原因に根差した、異なる結果が得られます。日本ー韓国間の摩擦は、慰安婦問題を率直に認めることへの日本の沈黙(認めない)と、朝鮮半島における植民地支配の遺産に、固く根差しています。過去6か月間の微々たる前進は、二国間関係の改善に向けた積極性をもたらしており、日本は、TPPにほぼ加盟が決まった韓国と結びつくことで、下降傾向にある経済に恩恵を得られるでしょう。

 

三国間および二国間協議以降、良識的な楽観主義が韓国と日本の関係改善を特徴づけていますが、慎重な悲観主義においては、中国と日本が会談からメッセージ持ち帰ったことにより、美辞麗句と実施された政策の分析となります。日中間の中核的な分断要因としての歴史に代わって、相互不信、安全保障問題、歴史(現代での相違と長年続いている相違ともども)は、冷ややかな関係だけでなく、実務的な関係にも寄与し続けるでしょう。協力よりむしろ競争が、日中関係の証明となり続けるでしょう。また地域統合は、ASEANプラス6または10モデルのASEAN中心のRCEPから、この地域の中国経済覇権が弱体化しつつも環太平洋統合へとシフトするでしょう。

 

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