中越租税条約の実務上の注意点

 

租税条約適用に関しては、中国・ベトナム双方の実務運用の特徴を理解する必要が有ります。租税条約適用の注意点に付いて、中国側・ベトナム側に分けて解説します。

 

【中国側】1.租税条約適用の事前手続

租税条約の優遇を受ける場合(この場合は、ベトナム企業が中国で優遇を享受する場合)、所管税務機関で事前手続を行う必要が有る事が、「非居住納税人の租税条約待遇享受管理弁法(国家税務総局公告2015年第60号)」に規定されています。

ここでは、投資所得(配当・利子・使用料)、事業所得、賃金給与等を問わず備案(届出)が必要である事が規定されています。

但し、実務上は、賃金給与(恒久的施設認定)、賃金給与(183日ルール)に関しては、事前手続無しで適用が認められますし、また、備案を申請しても受理されません。

一方、投資所得(配当・利子・使用料)に関しては、各種の書類の提出が義務付けられ、審査に2~3ヶ月の期間を要する状況です。

因みに、中国の非居住者に対する企業所得税に関する源泉徴収税率は10%となっており、中越租税条約の制限税率と同率で、租税条約の優遇は有りません。

このため、租税条約に定める政府機関に対する金利免除措置等の特殊なケースを除けば、事前手続は不要となります。

 

2.租税条約適用に関する個別事項

租税条約の規定と実務運用に関する、中国側の状況は以下の通りです。

(1)駐在員事務所

租税条約では、補助的業務に従事する機構は恒久的施設(PE)とは見なされない事が規定されています。

そのため、情報活動のみに従事する駐在員事務所(常駐代表処)は、本来的にはPE認定されず、企業所得税課税は受けない筈ですが、実際には、大部分の常駐代表処が、PE認定を受け、経費課税と呼ばれるみなし課税方式(経費額をベースに、一定の想定粗利益を計算し、納税額を算定する制度)に基づき、企業所得税・増値税を徴収されています。

 

(2)コンサルティング役務提供と183日ルール

中越租税条約では、連続する12ヶ月以内に、ベトナム企業が連続・累計で6ヶ月を超過する役務を中国内で提供すると、PE認定を受ける事が規定されています。

中国では、このタイプのPE認定(コンサルティング役務の提供に伴うPE認定)が、極めて盛んに行われています。

この様な形でPE認定を受けると、役務提供を行う出張者が、183日ルールの適用を受けられなくなり、滞在日数に相当する個人所得税を中国で納付する必要が生じます。

 

(3)国際運輸所得

中越租税条約では、国際運輸所得(国際海運・空運に伴う所得)は相手国側で課税免除される事が規定されています。

中国の実務運用上、運輸所得とは、輸送機経営者(船舶・航空機・車両を実際に所有し、これにより貨物・旅客の移送を行う経営者)のみが物流業者であり、貨運代理会社(フォワーダー)は、物流業者ではないという扱いが一般的です。

よって、貨運代理所得は、租税条約に基づく企業所得税の免税が受けられない可能性が有りますので、所管税務機関での事前確認が必要です。

 

(4)外税控除

租税条約には、二重課税の排除が謳われています。

それ以前に、中国の企業所得税法・個人所得税法上、外国税額控除の制度が有りますが、実務上、この適用を受けるのは極めて困難です。

 



【ベトナム側】1.租税条約適用の事前手続

(1)賃金給与に対する個人所得税

中越租税条約において、中国居住者のベトナム滞在日数が183日以下であり、且つ、ベトナムで給与が負担されていない場合、個人所得税課税が免除されます。

但し、中国居住者がベトナムで、この優遇を受ける場合、所管税務機関で事前免税手続を行う必要がります(2013年11月6日付け財務省通達番号156/2013/TT-BTC・第16条・第13項)。免税手続申請に当たり、提出する書類は以下の通りです。

・免税適格通知書(様式01/HTQT)

・前年度中国居住者証明書

・申請者の署名のある労働契約書コピー等の所得源泉を表す書類(申請者が自営業で所得を得ている場合は、中国での事業ライセンスコピー等、自営業を証明する書類)

・申請書の署名記載のあるベトナム到着日のイミグレーションスタンプ部分のパスポートコピー

 

(2)外国契約者税

中越租税条約において、連続する12ヶ月以内に、中国企業が連続・累計して6ヶ月超の役務をベトナム国内で提供しない場合、恒久的施設(PE)認定を受けない事が規定されているため、外国契約者税(企業所得税の源泉分)の課税が免除されます。

この場合も、所管税務機関での事前免税手続を行う必要が有る事が、「2013年11月6日付け財務省通達番号 56/2013/TT-BTC第20条・第3項」に規定されています。

この場合、ベトナム側契約者は、申告期日の15日前までに、以下の書類を提出する必要が有ります(申告期日はベトナム側企業のサービス対価支払日から10日以内)。

・免税適格通知書(様式01/HTQT)

・前年度中国居住者証明書

・納税者による認証済みベトナム側契約者との契約書コピー

 

尚、投資所得(配当・利子・使用料)に関しては、PEの有無に拘わらず、ベトナム側で企業所得税の課税権が生じますので、外国契約者税(企業所得税部分)の課税対象となりますが、この税率は、ベトナムの国内法では配当:非課税、利子:10%、使用料:10%となっており、全て中越租税条約の制限税率(一律10%)以内となっていますので、租税条約の優遇は無く、事前手続は不要となります。

 

2.租税条約適用に関する個別事項

租税条約適用の実務運用に関する、ベトナム側の注意事項は以下の通りです。

 

(1)駐在員事務所

租税条約では、駐在員事務所の様な、補助的業務に従事する機構は、恒久的施設(PE)と見なされない事が規定されており、結果として企業所得税課税が免除されます。

中国では、大部分の駐在員事務所が、PE認定を受け、みなし課税方式(経費課税方式)に基づき、企業所得税・付加価値税を徴収されている事は、前回解説しましたが、ベトナムに付いては、駐在員事務所に対する事のようなみなし課税は、原則として実施されていません。

 

(2)国際運輸所得

中越租税条約では、国際運輸所得(国際海運・空運に伴う所得)は相手国側で課税免除される事が規定されています。従い、FOB等のベトナム国内運輸を伴わない契約形態であれば、国際運輸所得のみが発生するため租税条約の優遇を受けることが出来ます。

一方、DDP等のベトナム国内運輸を伴う場合は、租税条約の優遇を受けられなくなるため注意が必要です。

 

(3)事前手続きの問題点

上述の通り、ベトナムでは、企業所得税・個人所得税に対する免税手続きが規定されていますが、「所管税務機関への通知=免税手続きの許可」ではない点に注意が必要です。

後日の税務調査時に免税手続きが否決されれば、税額及び納税遅延への利息の支払いが同時に生じることとなります。

 

以上

 

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